日本企業・日本人アーティストの出展

MILANO SALONE 2009  REPORT

1.TOKYO FIBER 09

斜めに配された布の上を、無数の水の玉が転がっていく。留まっている水が描いている文字は「TOKYO FIBER 09」のテーマである「SENSEWARE」――。一体、何の展示なのかと、多くの人が群がっているのだが、これは、日本の化学繊維の先端性を、クリエイターと一緒に提案したイベントだ。

日本の繊維産業が世界に向かって誇るべきもののひとつが、いわゆる化学繊維である。最先端のテクノロジーを駆使した化学繊維は、優れた機能性はもちろんのこと、独自性の高い質感や風合いに定評がある。それを、日本の各分野のクリエイターによって、新しいかたちで見せたのが「TOKYO FIBER 09」だ

トリエンナーレ美術館の広々とした空間で展示されたのは、様々なハイテク繊維とクリエイターの協業による16に及ぶ作品群。 全体のディレクションをグラフィックデザイナーの原研哉氏が、マテリアルコーディネーターには伊藤忠ファッションシステムの池西美知子氏が担当した。

建築家の隈研吾氏は、三菱レイヨンのプラスチック光ファイバー「エスカ」を用い、光を透過するコンクリートを生み出した。コンクリートに埋め込んだ光ファイバーによって、光源とコンクリート壁の間に人が立つと、壁の内側に影ができる。人の影が透けて見えるコンクリート壁は、「何だろう、どんな仕組みになっているのだろう」と、来場者たちの驚きを誘っていた。

ファッションデザイナーのミントデザインズが作ったのは、顔の型を成形したような立体的なマスクだ。ポリエステル長繊維でできた不織布を整形して、ダイナミックな立体成形を行った。まるで顔の一部を思わせるように鼻や口のかたちが付いたマスクはユニークでちょっとユーモラスなデザインだ。 マスクを付ける習慣が日本に比して少ない欧米の来場者たちの大きな関心を誘っていた。

化学繊維の先端素材の魅力を、様々な角度から提示する――高い独自性を持ったイベントとして、海外のジャーナリストからも大きな注目を集めたイベントだ。 総体として元気がない日本の繊維産業だが、世界からこれだけ賞賛を集めているのだから、確かな自信を持って、発信していく必要性を強く感じた。

2.キヤノン「NEOREAL」

キヤノン 「NEOREAL」

入り口を入ると、巨大なオブジェが目に飛び込んでくる――一体、何の展示なのかはわからないが、その迫力にまずは心を動かされる。
そして中に入っていくと、白いオブジェの随所に映像が映し出され、空間を覆う音や光と調和した世界観に、いつの間にか取り込まれていく。

キヤノンが今年のサローネで展示したのは、映像と人がかかわるインタラクティブなデザインだ。

大空間には、幅が約10m、奥行きが約20m、高さが約6.5mもある、不思議なフォルムのスクリーンが置かれている。
これをデザインしたのは、建築家の平田晃久氏。「映像を身体全体で感じてもらうために、スクリーンそのもので空間を作る」ことができないかと考えた。
そして組み上げたのは、メビウスの輪のように、一本の紐をねじってくぐらせていく行為を12回も行ったという複雑な構造のスクリーンだ。
表か裏がわからない、開放された空間と包み込まれる空間が共存している場を作り出した。

そこに映し出される映像は、たゆたうように泳いでいるクラゲの群れ。浮かび上がっては消えていく幻想的な映像が、浮かび上がっては消えていく。
インタラクティブアーティストの松尾高弘氏は、「キヤノンのプロジェクターの性能を最大限に生かし、かつ人と関係性を作る映像」という視点を盛り込んだという。
映し出されるクラゲは、微細なディテールや陰影がくっきりと浮かび上がり、流麗な動きに目を奪われる。しかも、人が手をかざすとクラゲが現れて、ゆっくりと上昇していく。これはセンサーが人の動きを感知して作動する仕組みだという。

「商品をあえて前面に出さずに、クリエイターの作品を通して何を体感してもらうかを考えた」と総合デザインセンター所長の酒井正明氏。「サローネはデザインに対する意識が高い人が集まる場であることから、強いメッセージをわかりやすく伝えることに腐心した」と総合プロデュースを手がけた桐山登士樹氏。

デザインはどんな気分やシーンを提供できるのかをシンプルに、しかも高度なレベルで伝えていく。多くを語らずとも意図するところが伝わってくる、精巧な技術に裏打ちされた美しいクリエイションが体感できる明快な展示だった。

左から、桐山氏、松尾氏、平田氏、酒井氏

1.日本のデザインへの関心は高い!

レクサス 「Lexus L-finesse ―crystallised wind-」

市内の美術館である「ムゼオ・デッラ・ペルマネンテ」を使って行われたのが、「レクサス」の展示だ。 伝統ある美術館だけに、重厚感のある入り口を入っていくと、がらんとした空間がまずは広がっている。五年前から参加してきたサローネでの展示を、パネルを使って辿っているのだ。

「レクサス」は毎年、各界のアーティストとコラボレーションしてサローネに参加してきた。その経緯を追っていくと、クルマのデザインを語るというよりは、アートに近い領域から、「レクサス」のブランドとしての世界観を伝える試みがなされてきたことがよくわかる。

五年目にあたる今年は、建築家である藤本壮介氏と組んで、「結晶化した風(crystallised wind)」というコンセプトのもと、独自性の強い展示がなされた。

奥にある大空間の薄闇の中に浮かび上がっているのは、透明なアクリル板でできた、三十に及ぶ椅子の群れ――その彼方にアクリルでできた原寸大の「レクサス」のスポーツカー「LF-A」が置かれている。 それらが、たゆまなく変化する音や光と一体化して、一種幻想的な世界観を生み出している。鮮やかな光の中に浮かび上がる透明な「レクサス」が、時間の経過とともに青みを帯びた余韻を残して暗闇に沈む。そして、光や音とともに再生する。周囲に配された透明な椅子と「レクサス」が呼応するように揺らぎ、呼吸しているかのように胎動する、身を置いた人の想像力に働きかける空間だ。

アクリルでできた原寸大の「LF-A」は、エクステリアだけでなく、シートやエンジン部分まで細密に掘り込まれていて、圧倒的な迫力がある。
ここまで精巧なモデルを作り上げるには、巨大なアクリルの塊を作り、それを内側と外側から丁寧に削っていったと、トヨタ自動車株式会社 デザイン本部グローバルデザイン総括部主任の松岡智仁氏。膨大な手間隙を要したに違いないことは、素人でも容易に想像がつく。
一方、藤本氏が考えたのは、「結晶化した風」というテーマから導き出した「存在していないかに見えて存在するもの」を、アクリルの椅子で表現した。座面にあたる部分はフラットだが、裏側は微妙に波打っていて軽やかな動きを感じさせるアクリル板に、繊細なカーボンの脚を付した椅子。ひとつひとつ形が異なるように見えるのだが、これは一枚の板を五枚に切り分けたもの。イタリアの職人とやりとりして、苦労しながら作り上げたものだという

ブランドを作った途端に、性急な結果を求めるのは、クルマに限らずどの領域でも、企業が陥りがちな方向だ。しかしそんな中にあって、「レクサス」が行ってきた五年の軌跡には大きな意味がある。今後も是非、ボディブローのように続けて欲しい展示である。

左から、松岡氏、藤本氏

1.日本のデザインへの関心は高い!

フォーリの目玉とも言えるトルトーナ地区に出展したのが、今年初めてサローネに参加した東芝だ。 トルトーナ地区は、縦横に細かく走る街路沿いのショップ、イベントスペースなど、随所にわたってサローネの展示が行われている。展示会場には統一された旗が掲げられていて、まさにお祭りに近い状態。間にあるバールや物販店も、何だかサローネムード一色で、まさに“まち・みせ・ひと”が一体となってサローネ一色になってる。

ここに、企業としては初めてサローネ出展したのが東芝だ。地図を見ながら探したのだが、なかなか東芝の展示場所が見つからない。よくよく見ると、街路からちょっと入った建物の一隅にそれらしき入り口が見えている。
本当にここでいいのかと足を踏み入れてみると、そこはこぢんまりしたスペース。「少し地味過ぎるかも」と思ったのが、実は大きな間違いだった。

さらに奥に進んでいくと、広大なスペースが急に開けたからだ。
一面に砂を敷き詰めた空間に、無数の電球が下がっている。随所に立てられた壁には鏡のアーチが設けられていて、さらに空間の広がりを感じさせる。

一見して電球に見えたものは、近づいてみると、水が入ったLED照明だ。通常の電球より一回り大きいガラスに水が入っている。
人が近づくと明滅が大きくなり、触れると光が振動する――水によって拡散された光が、美しい広がりを見せる。実に有機的な存在を感じさせる照明なのだ。

それらが、砂や鏡を背景に見せる動きがまた美しい。空間、照明、人とのかかわりが、言葉を介するのではなく、そこにいるだけで実感できる展示として秀逸だった。

空間構成は松井亮建築都市設計事務所、プロダクトデザインは、東芝とtakram designが共同で行ったものだという。

その他、LEDを使った新製品のプロトタイプも展示されていた。
初めての出展だけに、スタッフ一人一人が慣れないながらも一所懸命説明してくれるさまが好ましい。 来場者たちも好奇心いっぱいに砂と鏡の空間を巡っていただけに、今後も継続的に行っていくことが、企業のブランド力を高めるに違いないと思った。

1.日本のデザインへの関心は高い!

川島蓉子REPORT<サローネ・サテリテ>(1)

川島蓉子REPORT<サローネ・サテリテ>(2)

本会場であるフィエラ・ミラノが、15万2200㎡という想像を絶するような広大な面積であることは、事前に情報として得ていた。
何となく抱いていたイメージは、トルトーナ地区の規模を大きくしたような、割合、雑然とした賑わいのある空間だ。

家具関連の見本市というと、パリのメゾン・エ・オブジェを何度か訪れているので、その規模を大きくしたものだと勝手に想像していたのである。

しかし、実際に訪れてみると、予想に大きく反して、整備された大規模な見本市会場であることに驚かされた。
大きな中央通路を挟んだ両側に、大きなパビリオンが15も並んでいる。そもそも中央通路そのものが、幅が広くて直線なのに、その終点が見えないほど長い。通路沿いのパビリオンに足を踏み入れると、こちらも巨大な空間が広がっている。

本当に時間が限られていることを後悔しながら、一方で全部を見ようとすると果たして何日を要するのだろうと思いながら、とりあえず新進のデザイナーが参加している「サテリテ」に向かった。

新進だけに、稚拙なものからユニークな発想が詰まったものまで、玉石混淆のブースが並んでいるのが面白い。

そしてここでも、日本人デザイナーとして出展している何名かに出会った。

フィンランドを拠点に活躍しているARIHIRO MIYAKE氏のは、ペットボトルファイバーを使った、部屋の間仕切りに使えるブロックや、多面体のスタンドで、置き方によって角度を変えられる照明などを展示。スタンド照明はアワードにノミネートされていた。

フリーデザイナーの長谷川滋之氏は、和紙を使ったものと、ストレッチの布を使った照明を展示。いずれも日本の伝統技をモチーフにしながら、モダンなデザインに仕立てられていた。

「books」というブランドで出展していた山本達雄氏が出していた、鹿をイメージした椅子はユニークなもの。塗装によって毛足が付いたような質感にした椅子は、斑の図柄が施されており、背もたれの先に角が付いていてユーモラスだ。驚くほど軽いのも特徴のひとつだった。

国際メディア研究所のブースには、武藤努氏がデザインした「optone」という照明が展示されていた。起きあがりこぼしのように、揺らすと色が変わる「optone WAFT」、同じく回転させると色が変わる「optone COILA」など、人が動かすことによって光の色が変わる。訪れた人が盛んに触れては楽しんでいた。

中国や韓国からの出展も目についたが、アジア勢の中で日本人の活躍ぶりは目につくものだった。

Profile | プロフィール

川島 蓉子<かわしま ようこ>

1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科終了。1984年、伊藤忠ファッションシステム株式会社入社。ファッションという視点で消費者や市場の動向を分析している。Gマーク審査委員。
読売新聞で「マイスタイル」という週刊コラムを連載。その他、MJ、繊研新聞、朝日新聞、ブレーンなどに定期的に寄稿。著書に「おしゃれ消費ターゲット」(幻冬舎)、「TOKYO消費トレンド」(PHP)、「ビームス戦略」(PHP)、「伊勢丹な人々」(日本経済新聞社)、「松下のデザイン戦略」(PHP)、「上質生活のすすめ」(マガジンハウス)、「ブランドのデザイン」(弘文堂)、「TOKYOファッションビル」(日本経済新聞社)、「資生堂ブランド」(アスペクト)、「フランフランの法則」(東洋経済新報社)、「川島屋百貨店」(ポプラ社)、「虎屋ブランド物語」(東洋経済新報社)、「イッセイミヤケのルール」(日本経済新聞社)などがある。

原久子のMILANO SALONE 2009